「遺贈寄付」という言葉を知っていますか?これは、公益法人やNPO、学校など家族以外の第三者に遺産の一部または全部を寄付する行為のことです。金額の多寡は関係なく、「社会に恩返しがしたい」「生きた証を残したい」といった想いが込められており、近年少しずつ認知度が上がってきています。
今回は、「人生最後の社会貢献」と言われる「遺贈寄付」について、制度を含めて基礎知識を学び、実際に遺贈寄付を受けた団体の方の話を聞き、理解を深めることを目的にした交流会を12月7日にながの協働ねっとと共同開催しました。NPO団体や教育関係者など15人が参加しました。
第一部:「遺贈寄付のキホン」
成迫会計グループ相続手続相談支援センター®の宮嵜忍さんから制度や注意点について説明していただきました。
「社会に恩返しをしたい」という思いをもとに、財産の承継先を自分の意思で決めることができる、相続税・所得税の節税などの遺贈寄付の利点はありますが、配偶者や子ども、親のみに認められる最低限主張できる権利である遺留分への配慮、遺言執行者の指定などの注意点についても、詳しく話がありました。
参加者から「不動産の寄付はどうなるのか?」という質問に対して、「現金化されていない不動産や有価証券などは寄付先が受け取れない可能性もあるので、できるだけ現金化、もしくは寄付先にきちんと意思共有をしておいてほしい」と呼びかけがあり、参加者は熱心に耳を傾けていました。
第二部:パネルトーク「遺贈寄付体験を教えて」
遺贈寄付を受けた経験のある団体によるパネルトークセッションには、NPO法人ライフデザインセンターの小川和子さん、日本赤十字社長野県支部の山﨑慎哉さん、公益財団法人長野県みらい基金の髙橋潤さんが登壇しました。
▶小川和子さん(NPO法人ライフデザインセンター)
当法人は、 老後の住まいや介護、財産管理、遺言などの相談対応、成年後見も引き受けています。
「最期まで面倒をみた方が亡くなり、親族から感謝の意で遺贈寄付をいただいたことが過去にあり、とてもありがたかった。
ただ、遺贈寄付を決めるタイミングがいつなのか?が難しい。判断能力があるうちにご自身の意思で決めてもらうのが望ましいと。そのためにも若い頃からお金の使い方を考えることが大事。」
▶山﨑慎哉さん(日本赤十字社長野県支部)
「過去いただいた遺贈寄付は災害救護車両の購入費用を遺贈寄付で充てたことも。近年は頻発する災害の支援、戦地への支援をする際の資金は寄付で支えられている。
義援金を日赤に寄付いただくことも多いが、全額寄付先に渡すためこれは日赤の活動資金にはならないことを理解されにくい。また、遺贈の手続きもわからない人、生前贈与をしたいが家族には内緒にしてほしいといった相談もあり、専門家への相談は必須だと感じる。」
▶髙橋潤さん(公益財団法人長野県みらい基金)
クラウドファンディングの運営や企業からの冠寄付、休眠預金の配分を担う公益財団法人。
「聴覚障害者支援のためにといただいた遺贈寄付を元にした冠基金「信州eye基金」を創設し、助成してきた。「今は長野県のお金が特に首都圏に流れている現状がある。地域に役立てるため残す、ということを考えてくれたら嬉しいし、そうした思いを持つ方とご家族などの意向とうまくマッチングできたらと思っている。」
パネルディスカッションでは、それぞれがこれまでの経験を共有しました。この中でも、不動産寄付のありがたさ反面その難しさ、遺贈寄付をする人に寄り添い、その意向ときちんと向き合うことの大切さについて話がありました。
第三部:グループワーク
その後はグループに分かれ、テーマに合わせて議論しました。
「日本に寄付文化が浸透しない理由」として、「日本人はお金の話をすることがタブー視されている」「ふるさと納税やクラウドファンディングで寄付のハードルも下がっているが、お礼への期待も強い場合も多く純粋な寄付は増えていないのではないか」という指摘もありました。
「寄付を受けたらどんな活動に使いたいか」というテーマに対しては、「教育格差を解消することに使いたい」「自団体の活動を映画にしたい」といった希望のほかに、「寄付したNPOにすべて任せる」という期待も寄せられました。
交流会を終え、「制度の説明に加え実体験を聞いたことで理解が深まった」「異なる立場の人と議論できたのが収穫」という感想も。参加者同士の交流もでき、充実した時間になりました。
まだまだ認知度は低い遺贈寄付ですが、NPOにとっても、地域にとっても期待のある制度であると実感しました。
共催したながの協働ねっと飯島美香代表は、「とても充実した会でした。この制度の認知がもっと広がってくれたら、NPOにとっても可能性も広がるのでは」と期待の声がありました。