【センター主催】NPOカフェまんまる
罪を繰り返さないため市民活動ができること

犯罪を繰り返す若者を取り巻く社会には、どんな課題があるのでしょうか。社会とつながり環境を整えるために私たちにできることは何かあるのでしょうか。少年鑑別所や実際更生支援に携わっている団体などから話を聴きました。

協力団体:長野少年鑑別所

日 時:7月7日(日) 14:00~16:30
場 所:もんぜんぷら座3階304会議室
参加者:29人(保護司や更生保護女性会、関心あるNPO、教育関係者など)
登壇者:朝比奈卓さん(長野少年鑑別所)山本樹里さん(法務少年支援センター長野)
春日宏さん(児童自立援助ホーム夢住の家)江村洋子さん(更生保護サポートセンター)鳥海祐貴さん(降旗興業株式会社)オンライン参加:松浦亮輔さん(プリズンヨガサポートセンター)内 容:①「非行少年の動向と彼らの生きにくさ」(少年鑑別所)
      ②パネルディスカッション(企業・更生支援団体など)
     ③グループワーク

「非行少年の動向と彼らの生きにくさ」(登壇者:長野少年鑑別所 朝比奈卓所長)

はじめに長野少年鑑別所の朝比奈所長から、少年鑑別所の業務や、最近の非行の動向など話を聞きました。近年非行件数自体は20年前と比べると4分の1以下となり、大幅に減少しています。非行様態については、いわゆる暴走族をはじめとした不良集団に所属する人数も減少している一方、「詐欺」と「大麻」は増加傾向にあるそうです。こうした背景として考えられるのは、少子化にともない学校や家庭でのケアが充実してきたこと、インターネットの普及によって不良集団以外へのアクセスが可能になった、児童虐待への対応を含めた公的機関による予防的介入などが挙げられています。  

 最近の非行少年の特徴は、「複雑な家庭環境によるものや障害により非社会的な傾向、他人とうまく関われない少年が増加している」と話しました。また、家庭での問題だけでなく、少年たちが生きる上でも、社会として、対人関係の希薄化、多様な関係性が持てず社会経験が蓄積されにくくなっているという指摘もありました。そうした中で少年たちは、内面に漠然とした葛藤を抱え、短絡的・刹那的な楽しみや人間関係に逃避してしまう、大人への信頼感の低さ、自己肯定感・自己効力感が著しく低く将来へ希望を持ちにくくなっているそうです。「現代社会においては、非行という形で顕在化しにくくなっているものの、内面に問題を抱え、生きづらさを感じている人はたくさんいる。社会的資源に乏しく、非行少年が生きなおそうとするときにはなおさら、とても難しい社会だと感じる」と朝比奈さんは話しました。

最後に非行から立ち直った当事者のエピソードを紹介。見捨てないでいてくれる人、必要としてくれる人、本音で話せる人との出会いを重ねたことで、徐々に変わるということを強調しました。人は多くの人とのつながりの中で自然に変わっていくものだと思って、関わりを続けていくことが大切とし、地域社会の中で「我々に何ができるのか」を問いかけました。

②パネルディスカッション「我々に何ができるのか」

登壇者(左から):山本樹里さん、春日宏さん、江村洋子さん、鳥海祐貴さん、朝比奈卓さん
オンライン参加:松浦亮輔さん

山本樹里さん(法務少年支援センター 法務技官兼法務教官)

法務少年支援センターとは、少年鑑別所に併設された一般の方や関係機関の相談窓口。

心理学をベースとしたアプロ―チ。その問題行動の原因がどこにあるかを検討し、支援先をつないでいる。警察沙汰になる前の相談も多い。支援機関からの相談(児童相談所、学校など)も多く、支援機関がどう支援していけるのかをサポートしている。


【メッセージ】地域で支えられているからこそ、少年非行が減っている。しかし、人との関係性は変化する。人間関係を作るのがうまくできない子たちだからこそ、たくさんの小さなつながりをつくることが大切。小さなつながりがつながって支援の輪ができていくので、困っている人がいたら知らないふりをしないで、わたしたちにもつなげてほしい。

春日宏さん(児童自立援助ホーム夢住(むす)の家 支援員)

児童自立援助ホームは、義務教育後からの子どもたちの自立支援をしている。夢住の家は6人定員で男性専用のところ。集団生活がうまくできないことも。

【メッセージ】支援の中では、安心安全であること、信頼できる大人がいることが大事。ありがたいと思った時に人は変わる。見捨てないでくれた人がいる、必要としてくれた人がいることが大切。反省は一人でできるが、更生は一人ではできない

 一緒に暮らしているときに「よかった」と思うことはまずないが、その子が外に出て、結婚したり、外とのつながりの中でしっかり生活できていることを知ったりした時に初めて「この仕事をしていてよかった」と思える。

江村洋子さん(更生保護サポートセンター センター長)

 保護司とは、更生保護のボランティア。罪を犯した人が再犯に至らないようにサポートしている。

【メッセージ】寄り添って話を聞くようにしている。私はあなたのことを聞いてますよ、ということを伝える。地域でつながっていくことが大事。7月は社会を明るくする運動月間ということもあり、知ってもらうだけでもとても嬉しい。ぜひ長野市でも、若い人が中心になり、更生保護ボランティア団体日本BBS連盟の地区支部が復活してほしいと願っている。

鳥海祐貴さん(降旗興業株式会社 副社長)

 市内を拠点に、県内全域でアスファルト工事に関する各種工事、外構、エクステリア工事などを手掛ける会社。職親プロジェクト(官民が連携して職の親となり自立更生を推進する活動)の対象企業として、今まで30数名の元受刑者を採用し、現在残っているのは十数名。すぐに辞めてしまう人もいる。でも本当に立ち直りたいと思っている人もいる中、みなに同じ熱量かけて接している。

【メッセージ】熱量をかけているので、裏切られると心がへし折られることもある。自分たちだけでは無理なこともあって、その時には保護司や夢住の家の協力を得ている。親から愛情を受けていない人が圧倒的に多い。嬉しかったエピソードを紹介すると、少年院から仮出所のために入社したような人が、子どもができたこともあり、自分たちとも真剣に話をしながら仕事に向き合い、今も頑張って仕事している、といったこともあった。

 知ってもらうことは本当に大事。我々のような企業があることも知らない人が多いし、協力雇用主がまだ少ないようにも思う。長野は野菜をくれるような温かさがある地域。自分は以前10年埼玉にいたが、野菜もらったことは1回くらいしかない(笑)。社員が「野菜をもらって、地域の人と一緒にご飯に行った」と聞いた。これはすごいこと。ぜひこういう長野らしさを活かすことが大事ではないか。

松浦亮輔さん(プリズンヨガサポートセンター 代表)

全国にいるメンバーがオンライン中心で運営する任意団体。

刑務所等の施設に在所する受刑者に、文通によるヨガ・瞑想の伴走支援や出所後の手紙・メールでの交流を実施している。

【メッセージ】  犯罪とは、「良い人生」を実現しようとするためにとった手段の一つであると考えているので、その手段が適切であれば犯罪に関与する可能性が下がるのではと。そのため、適切な手段として「ヨガ・瞑想」を実践することを提案し、自分の本来の力に気づき、本当に在りたい姿に近づくことができるよう支援をしている。一人一人が生きがいや喜びをもって生きられたらと思っている。

③グループワーク「感想をシェアしよう」

パネルディスカッションの後は、グループに分かれて、参加した理由や感想、登壇者への質問をしました。

「民間としてどう関わることができるのか考えたくて」「“名前で呼ばれたこともなかったから”という奈良少年刑務所の詩集を読んで、関心を持った」「いろんな立場の方の話をききたい」と参加した理由はさまざま。参加者のみなさんがまず知ることが大事であると認識しており、同時に何かできることはあるか?と考えて今回参加していただいたことがわかります。

「制度の範囲外の方々への支援(ボーダー外の方)のために、行政と民間の間をとりもつ団体の存在が必要ではないか」「ケースを1人で抱え込まなくて良い。皆でサポートする意識」、「困ったら頼れるところがあると良い」と、支援者も一人で抱え込まないようつながりの大切さを強調する意見が多くありました。“更生支援”の視点が世の中にあるか、という話題から、「市民への発信は正しく理解を広げる上で大事になる。報道についても、犯罪の背景とその先、“立ち直り”の視点でも発信してほしいし、自分たちもそのような視点で見ていきたい」と話す場面もありました。

「親の愛情が足りずに非行に走ってしまった若者に、周りの大人が愛情を補うことは可能なのか?」と問いかけもあり、「愛」をテーマにしたグループもありました。愛とは、自分らしく生きられた時、人との関わり、地域の力などが挙がりました。他にも、自分の幸せをかなえる手段がわからない若者の価値観をどう変えるかなど、とても活発な議論が繰り広げられました。

④まとめ

今回、罪を犯してしまう若者の現代社会の生きづらさ、社会の課題を知った上で、自分に何ができるのか?を考えるきっかけになることを目指した交流会でした。実際に支援に直接携わっている方だけでなく、関心をもった一般の方、NPOなど多くの人が集まり、会場はごちゃまぜの空間となりました。

最後に登壇者の一人、プリズンヨガサポートセンターの松浦さんから「衣食住以外で必要な支援はなにか?」という問いかけが他の登壇者にありました。「一人の人間として地域社会に受け入れてもらえること」「仕事に就く、生きることが大切。良いことも悪いこともあるけど自分の人生を頑張りすぎないこと」「知ってもらうこと」と話す登壇者の姿から、地域として更生支援を考える重要性をつくづく感じました。

具体的な支援となるとすぐには難しいことが多いですが、まずは更生支援を知ってもらうこと、知った上で、いろいろな人がつながり、もともとある地域の力を活かした支援の力を作ることができるのでは、と模索する機会になった参加者も多かったようです。

今後は、交流会鑑別所を見学するツアーを計画中。多くの人が関心を持ち、大小問わず多様な取り組みやどんなつながりが生まれてくるのか、長い目で見ていきたいですね。

ナガクルでも紹介されています→ https://nagacle.net/topics-10645/

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